ムセイオン ～博物館の物語～
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Ⅲ．羽衣の桜
（二）
晴れた休日、僕はまた博物館を訪れた。エントランスホールに入ると、そこにはやわらかな春の日差しがあふれ、中庭では様々な花が咲いて、数匹の蝶が訪れていた。初めて見た時からこの庭の風景に魅かれていた僕は、街なかで春の気配を感じるようになって、来たいという衝動を抑えられなかったのだ。
中庭に面した椅子には薄紅色の服を着た若い女性が先に座っていて、自分もそこで座ってもいいものかどうか、少しのあいだ迷ったのだが、ほどなく彼女は立ち上がった。そのとき、彼女が席の横のテーブルに置いていた小さな赤いバッグから、何かがテーブルに落ちるのが見えた。急いで行ってみると身分証のようなカードで、名前の欄には「若宮さくら」と書いてあった。僕は歩いていく彼女を追いかけた。
「すみません。これ、落としませんでしたか。」
彼女が振り向くと、少し伸ばした髪がふわりと広がって、さわやかな香りがした。
「あっ、本当だ。ありがとうございます。」
カードを受け取った彼女が顔を上げた瞬間、閃光のような快感が走った。
今のは何だったんだろうか。いや、彼女が魅力的だったから、心を揺さぶられただけだろう。僕はそういう奴だ。
彼女はお辞儀をすると、展示室に入っていった。
それから僕は椅子に座って、ずっと中庭の景色を見ていた。ここに来るときに期待していたのとは違って少し落ち着かないような、それでも決して悪くはない時間が流れていった。